『夜は短し歩けよ乙女』に出てくる「デンキブラン」が架空のお酒ではないと知るやいなや、その琥珀のお酒を提供する「神谷レストラン」を訪れてみた。
一階にバー、二階にはレストラン形態の店舗を開いており、今回は2階を訪れた。
マカボニー色調の扉を押し開けると、食品サンプルを抱えたショーケースと昭和レトロな内装が迎えてくれた。
通された座席は、左手すぐの4人席テーブル。休日の真っ昼間ということもあり待ち時間も覚悟していたが、昔ながらの灰色のウェイトレスユニフォームを身につけた店員に導かれて、すぐに腰を休めることができた。
早速、デンキブランと食事を注文する。
デンキブランは、駄菓子屋で見かけるコーラ味のグミを品よくし、はちみつのような優しい甘さをまとった琥珀色の液体は、舌に残ることなく軽やかに奥へと流れていき、お腹の底をじんわりと温めていく。
2杯目には、オールドデンキブランをいただいた。
オールドデンキブランは、無印と同じ味わいと香りを湛えながらもキリリとした鋭さがある。風味は鼻腔を通じて心地よく外へと流れていくが舌に残ることはなく、疾く喉元を過ぎ去り、何事もなかったかのように腹奥へと収まっていく。しかし、しばらくすると琥珀の液体が通り過ぎた口蓋や食道がピリピリと震えだす。心地よい痙攣に身を任せ堪能していると、ふと生来の好奇心が騒ぎ立ち、琥珀を直接舌の上に触れさせてみた。すると静電気の如き小さな電撃があちこちで放たかと思うと、独特の温かさが口いっぱいに広がった。味わい方一つで魅せる味わいがこうも変わるとは、なんとも面白い。
アテには、9種のつまみが一堂に会するワンプレートを注文した。
どれもこれも、一つ際立った味わいを持ちながらデンキブランを引き立てる面子であった。
特に私の舌に合ったのが、ガーリックソーセージと海老マカロニグラタンである。
ガーリックソーセージは言わずもがな、王道の王道を歩むような舌の上に広がる油と鼻腔を突き抜けるスパイスが見事に絡み合う逸品だった。
一方、海老マカロニグラタンは正反対のまろやかさや優しさが、地層に染み込む雨水のように心も体も満たしていくようであった。
そして、訪れた当日は観世音菩薩の縁日にあたる18日であったことから、黒豆の小皿をご厚意で頂いた。
ひと喰みすれば、黒曜石を覆う紗幕がするりと脱皮し、ほのかな甘みを含んだ身が口いっぱいに広がっていく。般若心経を唱えたくなる味わいであった。
真っ昼間からデンキブランを煽り、つまみに舌鼓を打つ、非常に良き休日を過ごすことができた。
次回は仲間を引き連れて、下階のバーも訪ねたいものである。
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